ベディエ著「トリスタン・イズー物語」岩波文庫

 中世ではトリスタン伝説というのが流布し、さまざまなトリスタン物語が描かれていました。特に有名なのは流布本系としてのベルール版、もう一つは宮廷風恋愛物語系としてのベルール版で、こちらは後にドイツのゴットフリート・フォン・シュトラースブルグやワーグナートーマス・マンらに影響を与えています。このように、トリスタン伝説には様々なヴァージョンがあるのですが、それらを丁寧に読み解き、一冊にまとめたのがベディエの「トリスタン・イズー物語」と言えるでしょう。
 最初まではトリスタンという英雄の華々しい活躍が続きます。しかし、誤って媚薬を飲んでしまうことで、イズーとの不倫関係が始まります。それまでは国を救う英雄だったトリスタンも、恋愛のことしか頭に入らなくなり、やがて死を意識し始めます。
 ラストは涙なくしては語れない悲劇です。これぞ恋愛小説の真骨頂といえるでしょう。「セカチュウ」「恋空」などを多く読むよりも、これを一冊読むほうが絶対感動できます。

トリスタン・イズー物語 (岩波文庫)

トリスタン・イズー物語 (岩波文庫)