Lights off

 昨日の話になりますが、元住吉から自宅へと歩いている最中、騒がしい商店街を避けて東横線沿いの住宅街を歩いていました。人通りの少ない静かな場所で、比較的落ち着ける場所です。真っ暗な所を歩くのはなかなか心休まることです。子どもの頃こそ恐怖も抱きましたが、今では好奇心の方が強いのでしょう。
 そんな中、地元のPTAのおばちゃん達が向こう側から横隊を成して歩いてきました(横隊と言っても三人ですが)。彼女らは口々に「ここら辺ももう少し明るかったら見張らなくて済むのにね」と言い合い、夜間パトロールの仕事に不平を言っているようでした。
 日本はかつて鍵を掛けなくても安心な国家で、今でもわりと他国に比べれば治安の良い方だと思います。しかし連日のマスコミによる劣悪な犯罪の報道は相次ぎ、なんだかよく分からない防犯意識を共有せざるを得なくなりました。徹底的な管理社会の下、子どもの集団下校、GPS携帯による子どもの居場所確認、いずれも教育というよりも、ロボットを取り締まっているような形です。子どもにはもっと冒険させることが必要なんではないでしょうか。ここまで肥大化し犯罪も増えてしまった社会では、自由奔放に生きることが困難になっていると思います。せめて夜中に歩いても安心な社会になって欲しいものです。
 昼間は太陽、夜は月と星です。都会で見える星といえば手で数えられる程度ですが、この夏岩手へ旅行した際、夜中にこっそりと旅館を抜け出して見上げた星空はまさに満天でした。たまに流れ星なども見られ、星座もはっきりと確認できました。これが正真正銘の夜空です(高村光太郎の「あどけない空の話」はご存じですよね?)。川崎に住んでいる僕はその夜空に感動を隠しきれず、しばらく首を擡げたまま地球の外に広がる魅惑の世界に想いを馳せていました。そして、これらを隠してしまう都会のネオンや街灯って、一体何なんだろうと不思議な気分に駆られました。
 帰京してからというものの、まともな夜空を見ていません。周りの建物などから発する光が本物の夜空を隠し、人間の感受性まで鈍らせているような気がします。それで犯罪なども起こってしまうのかもしれません。一度岩手で本物の星空を見上げれば、罪を犯す気など薄れてしまうでしょうに。
 我々、日本人の大半が生きている都会という場所は、この地球にとってまさに異常事態です。せめて、人間の放つ光から離れて、遙か遠くから届く恒久の輝きだけを頼りに歩いてみませんか?