阿部和重著「ニッポニア・ニッポン」新潮文庫

 これは面白い!
 プロットとしては、若き青年が思い立って佐渡島へ鴇を殺害しに行くというだけの話なんですが、天皇制をトキのようだと批判したり、中国種だか日本種だかよく分からない鴇の血統について、日本人それ自体の文化人類学的アプローチを試みたり、とにかく凄い作品です。このようなネタが、さながら三島由紀夫金閣寺」のような物語で展開されます。主人公は俗世間から離れたいわばオタク、何かとてつもない破壊願望を抱いて行動するけれど、最終的にはその対象から拒絶されるというシナリオ。オタクではあるし、その行動も常軌を逸していてとても読んでいて痛いんだけど、それが世間の本質を掴んでいるような気がしてやみません。
 ニッポニア・ニッポンについて言えば、最後の最後で誰だかわからない視点に飛んだのが凄かったですね。あれがなければ単なるネタ小説として終わったと言っても過言ではないかもしれませんが、ラスト1頁があるからこそ読者を急激に元の世界に引き戻す力を持った純文学たり得る、みたいな気がします。三島由紀夫の「金閣寺」が大好きな私としては是非ともお薦めしたい一冊です。この機会に「金閣寺」の方もどうぞ。
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