時代はヤンデレ

 以前ツンデレがマスコミに着目されるほど流行しましたね(知らない方はググってください)。しかし、あれはキャラクターの記号性を単に二重構造にしただけであって、素人が小説やマンガでツンデレメインを書こうと思えば、それなりのものであれば案外簡単に書けちゃうものなんですよ。ライトノベルはキャラクター描写において表面的かつとても記号的になりがちです。もちろん上手い作家は上手くて、彼らが生んだツンデレキャラには至高の輝きがあるのでしょうが、「ゼロの使い魔」然り「灼眼のシャナ」然り、【ツン】→【デレ】の単純構造しか存在しない故、自分としてはいまいち盛り上がれないのです。むしろキャラクターを「ツンデレ」と縛ることによって自由な心情表現ができずにいるような、ライトノベルの文学的水準を下げているとも言いかねない状況もあるんじゃないかと懸念しております。まあ、自分が単にツンデレが趣味ではないというのはあると思いますが。
 そこで(どこでだ?)一押しなのはヤンデレです。これも「Scool Days」の騒動でかなり有名になりましたよね(マスコミに取り上げられることはなさそうですが)。古くは源氏物語において生前の恋愛における痼りが幽霊として登場せしめた六条御息所に端を発し、有り体に言えば主人公を愛するあまりに自傷行為、多傷行為、その他病んでいるとしか思えない行為に出るヒロインを総じてヤンデレと呼称します。アニメの最終話で凄い行動に出る「Scool Days」の桂言葉は有名ですよね。ヤンデレヒロインは読者に時として恐怖を与えますが、それは主人公を愛するあまりに出た行為であり、ヤンデレとは本気の証なのだ、という説は様々なところで聴かれます。実際その通りでしょう。
 ヤンデレブームのルーツはそれこそ諸説ありますが、狂ったヒロインというのが脚光を浴びたのはやはり「ひぐらしのなく頃に」の園崎詩音竜宮レナが大きいかと思いますね。ヤンデレは単なるホラーで終わることが多いのですが、罪滅し編のラストはそこからヒロインの救済まで行っているから凄いと言わざるを得ません。まあ、竜宮レナは厳密なヤンデレの定義に当てはまらないと言う人も居ますが、そんな厳密な定義など存在しないでしょうし、彼女の功績は大きいと思います。
 ツンデレの構造はわりと単純だと前述しましたが、ヤンデレはキャラクターによって自傷行為に走る者もあれば多傷行為に走る者もあり、笑い出す、もの凄い形相で見つめる、ストーカー行為に出るなど、各々によってその表現方法は多彩です。これらが複数組み合わさったり、全く予想も付かない狂気の表現方法があったりとまさに無数のバリエーションが存在しうるので、逆に言えばその構造も複雑化しますし、キャラクターが単なる記号として収まることなく、その物語における重大なファクターと成りうるのです。だからこそ、素人が書こうとすると本当に難しい。単純にナイフを振り回すだけでは単なるホラーとなってしまいますし、【デレ】を強調しすぎても駄目なのです。短編小説ではほとんど表現不可能だと考えられ、長編小説、それなりに長いシナリオの中で徐々に壊れていく様が描かれてこそ、ヤンデレは成立します。非常に作者の腕が試されるジャンルです。だからこそ良いヤンデレには文学的価値も付随すると言えるでしょう。
 ツンデレ大全には出ていなかったのですが、小説以外ならSound Horizonの「Elysion 楽園幻想物語組曲」がお薦めです。5人ほど、ヤンデレなヒロインが四つのエルに挟まれて登場します。中でもArkは秀逸。ヤンデレの鏡とも言えるでしょう。
  
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