桜庭一樹著「少女には向かない職業」創元推理文庫

 文庫落ちし、解説はかの杉江松恋さんが担当しています。
 桜庭一樹は思わず共感してしまうシチュエーションを描くのが上手いですね。そこは非常に評価できるところだと思いますよ。
 ただ、どうなんでしょう。やはりミステリー的な仕掛けはやや弱いかな、と。
 桜庭一樹は読書家で、洋モノもしっかり読んで自作品に反映させているのです。「赤朽葉家の伝説」では自分が吸収したことはしっかり組み直してオリジナリティーのある物語を構築したと言えますが、本作はちょっと頼りすぎかな、という気がします。
 作中でとある洋モノの本がでてきて、それがまあ、ミステリー的な仕掛けに関わってくるのですが、それを読んでいない人にとってはちょっとわかりにくかったかな、と。まあ、作者側もきっと、未読なら読んでくださいと言いたいんでしょうけど、ちょっと排他的な気がしなくもないです。
 どうなんでしょう。自分でもいいのか悪いのかいまいちわからないんですが、この本を読み前にこれを読んでおけ、みたいなお決まりがあって、その決まりを遵守しないと読んでもわからないものってあるじゃないですか。本作もそれに近いところがあるんですよ(まあ、わかるようにはなっているんですけどね)。
 桜庭一樹ライトノベル出身の作家で、現在は直木賞を受賞するほど一般文壇へ上り詰めましたが、一般文壇へ転向するということはライトノベルの読者を切り捨てる、ということではないはずです。
 個人的な考えとしては、本は独立してそれ自信が面白さを有しているべきだと思います。仮に既存作品のオマージュをやる場合でも、自分なりにかみ砕いて書いた方が良いのではないでしょうか。
 とは言え、作品の話に戻すと、なかなかキャラクターの心情描写もうまくできていて、ラストシーンもなかなか良かったと思います。ただ、自分は赤朽葉〜の方を支持しますね。前述したようにミステリー的仕掛けが両方とも弱い気はするんですが、赤朽葉〜の方は物語の焦点がミステリー的話題というよりも女系家族を軸とした壮大なサーガであるのに対し、本書はむしろ殺人者の葛藤という、仕掛けが功を奏す設定ですから、もう少し万人にわかりやすく、そしてインパクトのあるものがあれば良かったかなと思います。
 今回はちょっと辛めに感想書いてみましたが、桜庭一樹はこれからも応援していくつもりです。

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

少女には向かない職業 (創元推理文庫)