ゲーテ著「ファウスト(一)」新潮文庫

 毎度のドイツ文学レビューです。
 「世界文学」を目指した作者だけのことはあり、キリスト教から何から何まで様々な要素を文学に取り入れ、とてつもなく大規模な一遍にまとめ上げた作品です。
 さてさて、感想をば。ファウスト自身のキャラクターは現代となってはわりとありがちで、個人的にはあまり楽しめませんでした。このヨーロッパ的人格を「退屈性」と呼ぶのであれば、そのような主題の推理小説は五万とあるからです。
 しかし悪魔メフィストフェレスのキャラクターは非常に魅力的でしたね。ファウストとコントをやっているかのような、そんな悪くも楽しい雰囲気を醸し出してくれます。グレートヒェンはわりと女性としてありがちな設定ではありましたが、花占いを楽しむシーンや、最後の独白などははっとさせられます。メフィストがある種悪魔とするにはおちゃらけているキャラクターであるにもかかわらず、グレートヒェンはそれに嫌悪感を示す辺りはなるほどと思わされました。
 全体的にドラマチックな展開があり、最後の巧妙な設定もあり、作品自体の古さと現代でも通用する面白さを考えれば非常に良い本だと思いました。

ファウスト(一) (新潮文庫)

ファウスト(一) (新潮文庫)