「Vocarhythm」発売

http://vocarhythm.com/index2.html
 初音ミクオリジナル曲、初期の傑作を詰めたCDが遂に販売開始です。どれもこれも名曲揃いで2000円ははっきり言って安すぎますね。是非ともご購入下さい。
 初音ミクは新しい才能の開花をもたらした電子の妖精としてその活躍ぶりを「ユリイカ」まで取り上げた存在です。そんな楽曲の中から二曲をセレクトしてみました。

5曲目:ミラクルペイント

 とても明るい感じのポップでビッグバンドな曲。なのにしっとりとした夜に一人聞きたくなります。
 CDのレビュー欄に「いつも私の曲に絵をつけてくれる友人への感謝の気持ちを歌ったラブソングです」と書いてあって、なるほどと納得しました。「ミラクルペイント」という曲をしっかり理解するためにはやはりネット上での初音ミクの位置づけが前提知識としてあるかどうかが問われます。
 ミラクルペイントの主人公は初音ミク自身。彼女は歌い手であると同時に自分が絵師によって生まれたイラストであると認識し、この歌を高らかに歌い上げているのです。そこにあるのは自分を生み出してくれた絵師への感謝の気持ちと愛。
 RaiMという団体のCDに収められている「RGB」と同様、イラストが絵師に恋をするというちょっと特殊なお話。二次元、美少女というとアキバ系おたくの背徳的なイメージがつきまといがちでしたが、近年ではそれらのイメージは一気に払拭されて、この楽曲のように華やかに一つの文化として受容されつつあります。
 夜中、一人でパソコンの前に向き合うこと。それは一見孤独のようにも見えますが、想像力を働かせれば「ミラクルペイント」の世界はここまで動き出すのです。ヴァーチャル世界はどんどん広がってここまで華やかにリアルになりました。ここまでロマンチックに現実を超えて広がる初音ミクの世界、新しい時代の幕開けとしか言いようがありません。

1曲目:初音ミクの消失

 初音ミクが一つのプログラムであることを思いっきり反映して作られた楽曲。手塚治虫の「鉄腕アトム」、藤子F不二雄の「ドラえもん」など、日本が世界に誇ってきた「ロボットに篭められた魂」の系譜を正統に継承する楽曲と言えるでしょう。
 そもそも初音ミクは単なる楽器として市場には出されました。しかし、単なる宣伝のためのイメージキャラクターが創作によって物語を付加されてきた歴史がこの国には数多く存在します(東浩紀動物化するポストモダン」参照のこと)。
 通常、キャラクターというものは物語の中で動く要素ですが、この要素が抽出されて一人歩きしはじめ、「二次創作」と呼ばれる遊びが流行しました。こうしてキャラクターは物語を離れ、独自の物語を拡大させていきます。
 しかし一方で要素のみを凝縮したキャラクターが次次と生まれ、彼らは多くの人によって物語を付加され、大いなる物語にとけ込んでいったのです。

 特に初音ミクはここ1、2年の間、ネットの人々にとても愛され、数多くのVOCALOID物語が創出されていきました。この曲はそんなVOCALOID物語の重要な側面を担う別れの楽曲なのです。

 人間の感情とは不思議なもので、物語の如何によって人間でも動物でも植物でもない、「プログラム」にすら感情移入できてしまうのですね。しかし、この背景には「初音ミク」ブームの素晴らしさがあると言ってしかるべきでしょう。