川越ブームと未来

東京タワーは最早東京のランドマークとは言えない。
かつては東京のランドマークだったが、現在では摩天楼の影に隠れて身を潜めている。東京タワーは東京という街を象徴しているというよりも、高度経済成長期の栄光を象徴しているのである。いわば過去へ思いを馳せる材料としての東京タワーであり、それ自体には特に魅力がなくなってしまった。東京タワーを題材にした物語は数多存在するものの、それらのテーマもやはり東京というより過去の回想である。

それに比べて、「時の鐘」は川越の街そのものを象徴する。まさに川越のランドマークだ。
「時の鐘」自体はそこまで高さもない一般的な形状の鐘であり、333mもある東京タワーから比べれば大した構造物ではないだろう。しかし、重要なのは周囲だ。最早過去の伝統も省みないでひたすら改築を繰り返す東京の街に比べ、川越には変わらぬ普遍性がある。【前もって蔵造りの家屋構造というテンプレを用意し、それに従えば後は自転車屋でも本屋でも何でも好きにやっていい】という川越のまちづくりは世界に誇るべき大成功例であり、均一に揃った屋根があるからこそ「時の鐘」が圧倒的な存在感を持って川越の街に君臨できるのだ。蔵のまち地区にいれば「時の鐘」はどこからでも目立ち、大空に映えて、思わず写真に収めたくなる風景が溢れる。どこか懐かしい、ノスタルジックな光景と簡単に片づけることもできるが、何よりもそこは唯一無二の川越なのだということが重要だ。

菓子屋横町で七色唐辛子の実演販売を行っていた気さくなおじさんの見事な腕には感激を覚えた。プロフェッショナルである。本人も自らの仕事を「絶滅危惧種」だと主張していたが、どうかこのような伝統が末永く続いて欲しい。そのためにも、この川越という街の存続とコンスタントな観光客の存在は必須である。

喜多院も素晴らしい。京都通なら必ず唸る枯山水庭園、この地ならではの歴史と見所満載の観光地だ。拝観後に行く五百羅漢の表情観察も非常に愉しい。ここ最近はNHK特需で賑わっている川越だが、放送終了後しばらく経過したら一体どうなるだろうか。どうか、ブームをブームで終わらせて欲しくない。川越には何度でも再訪する魅力があると僕は断言できる。四季折々で変化する喜多院の庭園を見るためだけに行く価値すらある。

ネックは交通網であろう。「とおりゃんせ」発祥の街として町興しをしているが、皮肉なことにその「路地の狭さ」が慢性的な交通渋滞を招き、バスの遅延などを招いている。駅から離れた観光見所スポットが各地に点在しているため、徒歩のみを使った観光プランを立てにくく、バスも本数が少ない。イーグルバスは「とおりゃんせ」を車内に流し、雰囲気のあるボンネットバスなどを流して積極的な観光案内もしているのだが、なにせ本数が少ない。そして不案内だ。イーグルバス東武バスが競合していて、イーグルバス独自、東武バス独自のバス一日乗車券は存在するのだが、両者どちらも使うことができる乗車券が欲しい(例:京都市営一日乗車券は一社のみだが、京都観光フリー切符は京都バスなどにも使える)。何よりも、観光地が駅から遠い。
そして「ださいたま」イメージの払拭がどうしても必要だ。川越は生活圏内であり、近すぎるためにこの先ツアー観光などがあまり組まれないだろう。しかし、この「近さ」はデメリットからメリットへ変えることができる。行政、鉄道会社、地元民が手を繋いで政策を講じれば特需以降もコンスタントに観光客をゲッドすることはできるのではなかろうか。街の魅力は十分すぎるほど。芋ソフトなど、芋製品は本当に美味だし、本格的な地ビールも素晴らしく、他にも魅力は盛りだくさん。後は、新しい観光宣伝を随時試し、新しい風を吹き込むことが必要だろう。知識を広めていく「川越検定」などの試みも始まっているようだ。埼玉県が世界に誇る観光地として是非頑張って欲しい。僕も全力で応援したい。



ゆくゆくは「小江戸」が「大江戸」を越えてくれたらな、と妄想してみる。