夜寝れない

 近頃まで、夜に寝れないという事態はほとんど起こらなかったが、最近は妙に覚醒してしまい、寝ようと思っても全然駄目な時がある。今もそうで、ああだこうだと思考を巡らせながら、PCに向かって文章を打っている。
 陳腐な言い方をすれば、その原因は至極簡単で、最近恋をしたからだ。
 二人で話し合い、一つの結論は導き出せた。彼女はとても誠実だった。互いにそれで満足した。それに対してとやかく言うつもりはない。けれども、確実に何かが僕の脳内を侵食しては啄んでいく。情けないのは僕の方だ。
 この現象により高邁な言い方などないのだろう。こういった経験は言葉にした途端にひどく陳腐でありきたりな現象に成り下がる。言葉にしてみると「恋の悩みで夜も眠れない」という、人間がアウストラロピテクスくらいの時に意識を持ってから現代まで星の数ほど繰り返してきた現象が僕の身に起きているというだけである。
 傍目から見ればそうだろう。けれども、かつての僕とは変わってしまった。本当は現象という言葉も使いたくない。時折、彼女の笑顔が胸の中でちらつく。意識的に消そうと努めると、妄想は肥大化する。やがてどうしようもなくなる。失礼な話かもしれないが、彼女が男だったらもっと気楽に付き合うことができたのに、と考えることすらある。いっそうのこと自分が女だったら、と想う。どうしようもないIFの模索に酔いつつ、うんざりする。

 この間、友人に「君はもっと内面のもやもやとうまく付き合うべきだ」といった趣旨のことを注意された。そうかもしれない、と僕は思った。その場で僕は泣いた。ずっと感情はなるべく排すべきだと考えていた。けれども、感情とうまく付き合っていくのが最善なのかもしれない。
 当面の問題は、この不眠症とどう付き合っていくか、である。毎日発症するわけではないので、発症しない日のことを意識的に考え、自らを方向付けるのが良いのだろうか。