中島梓著「コミュニケーション不全症候群」ちくま文庫

 この本は本当にすごいです。文章がとても読みやすい。
 街を歩いていると、他人のことが全く目に入っておらず、自分だけの世界に入ってしまっている人を見かけることがあるでしょう。都会はもはや人口が飽和し、元来動物が築いてきた「自分だけのテリトリー」が崩壊し、人々はそんな社会に適合できるように作者の言う「コミュニケーション不全症候群」に自らなることによって生き延びているのだそうです……いわゆる「オタク」という人種は現実の中で自分のテリトリーを構築することを放棄し、仮想世界の中に自らのテリトリーを置くことによってこの社会を生き延びているのではないか、というのが作者の問題提起です。
 作者の中島梓氏は別名「栗本薫」としてミステリー、SF小説を書き、やおい系の元祖を築いた方で、本書はそんな自分の自己分析を行いつつ論を展開していきます。さながら、フロイトが自らの病理を分析してあの壮大な論を展開していったように。
描かれているのは現代より一つ前のおたく世代の話ですが、根本的なところは同じで、現代のおたくは彼女の議論がさらに深まったところまで達したのだろうと僕は考えます。
 いわゆる「二次元にしか興味を持たなくなったオタク」から女性のダイエット願望、そしてやおい系がいかに生まれ、腐女子(当時はこの言葉がなかった)がどのような精神のもと男×男の世界にはまっていくのかがとても丁寧に書かれています。
 本人がいわゆるオタクっぽい人だけあって、そこらへんの専門家がなんだか偉そうに分析したわけのわからぬ本とは一線を画しています。

コミュニケーション不全症候群 (ちくま文庫)

コミュニケーション不全症候群 (ちくま文庫)