竹宮ゆゆこ著「とらドラ5!」電撃文庫

 感動のあまり思わず泣きそうになってしまった。学園物・ラブコメライトノベルの中では1、2を争う名作だと断言する。
 この作品の魅力は、ライトノベルにありがちな「薄っぺらいキャラ設定」から大きく逸脱し、皆のキャラクターがしっかりしている点だろうか。特に主人公にはとても共感できる。この人物造型は従来のライトノベル価値観を覆すものであり、各キャラクターの抱える心理的トラウマが他人と思いっきりぶつかり合って独特の作品世界が構築される。特にファンタジー要素も何もないのにここまで面白いのはすごいことである。
 主人公以外にも、脇役でさえ明確なキャラ造形があり、ライトノベルというよりは名作の児童文学といったところだろうか。飛び交うギャグや言葉の端々はライトノベルそのものだが、是非後世まで残ってほしい良著の一つであり、現代の(あまり売れていない)ライトノベル作家は本著を読んで大いに参考とするべきだと思う。夏目漱石の作品みたいに、人間の嫌なところもちゃんと書かれていて、それがまた人間臭くて魅力的。現代の薄っぺらなライトノベルが排してきたのは、人間の嫌なところを描写することでしょうな。その点、魅力的。

とらドラ! (5) (電撃文庫 た 20-8)

とらドラ! (5) (電撃文庫 た 20-8)