またまた群馬の温泉を巡る+埼玉

 朝5時30分頃に出発。時刻表を見ずに行動した結果、待ち時間がやたら長くなってしまった。本数の少ない吾妻線の都合である。もう少し遅く出発してもよかったかもしれない。結局、赤羽や深谷などで下車し、時間をつぶした。深谷はネギであまりにも有名な他、渋沢栄一の出身地でもあり、煉瓦づくりのレトロな駅舎がお見事。

 ミニ東京駅がこんなところにある。自動販売機まで煉瓦模様に染める徹底ぶり。キオスクでは「深谷駅舎サブレ」なる土産物が売られていた。ネギ関連グッツを買おうと思っていたのだが、こっちにしようと意志を曲げる。ついでに、これまた深谷名物であるアイスの「ガリガリ君」も買おうか悩んだが、朝方で寒かったのでやめておいた。熊谷が暑いのも夏だけである。
 9時25分発の吾妻線目当てで高崎駅に到着すると、駅構内は非常に混雑していた。女子トイレに行列ができる人気ぶり。今日はSL水上の運転日らしく、その乗客で賑わっていたのだろうと推理。まあ、シルバーウィークだしなあ。
 無事、湘南色吾妻線に乗り込み、買った「豚肉チャーシュー弁当」を食べながら車窓を見ていると、沿線の異様な光景に絶句した。まあ、当たり前のことなんだが、SL走行、しかも見事な秋晴れということで、津々浦々から撮り鉄が大集合している。半端な数ではない。朝早くからエネルギッシュだなあと感慨深く思った。
 列車は何事もなく中之条駅に到着。十分くらいの接続時間で関越交通バスの四万温泉行きに乗車した。このバス、何の変哲もない日野の中型なのだが、やたら揺れる。道が悪いのも相まって激しく揺れる。途中、四万湖が車窓に見えて、澄んだブルーの水面が美しかったが、車内に流れる観光案内は周りの騒音でほとんど聞こえなかった。
 道が山登り状態と化すと、本線から外れた旧道のほうにしょっちゅう逸れて、なかなかアクティブな運転を見せてくれた。四万温泉街に入ってしまうと料金は終点まで900円で固定となる。終点のちょっと前で降りるのでやや安くなるかなというケチな野望は見事に玉砕された。「山口」バス停で下車。

 すぐ目の前に「山口露天風呂」の看板。矢印は旅館と旅館の間の小路を指している。歩いていくと細い橋になった。清流、四万川の向こう側には本日お目当ての町営露天風呂があった。こちらは完全混浴の施設で、しかも入湯料は無料ときている。川のすぐ近くというロケーションもすばらしい。一応、着替えるための小屋が男女それぞれもうけれられているが、三人も入るといっぱいになってしまう狭さ。しかし、露天風呂はごつごつとした岩の風呂がいくつか並んでいて、それぞれ温度が異なっていた。

 入浴してみるとこれがすこぶる気持ちいい。熱めの湯から、水風呂に近いものまで様々。好みの温度を探せるのでありがたい。ちなみに、混浴ということで女性客も何人か来ていた。カップルで露天風呂を見に橋のたもとまで来る人は結構多いものの、いざ入浴する人は案外少数派で、橋の途中で引き返してしまう人も少なくない。仕切りみたいなものもあるし、なにしろ数名の女性客もいるのだから、ためらうことなどないと思うのだがどうだろう。
 泉質は無色透明でほとんど無味。わずかに硫黄の香りが漂ってくる。癖のない、肌に優しい湯で、茶色の湯の華がもうもうと舞っている。無料で源泉掛け流しの湯に入れるのだからもう天国だ。文句なしの名湯。

 服を着て橋を戻り、先述のバス停まで行くと上の湯共同浴場がある。こちらは小さい小屋の中に木と岩でできた浴槽があるシンプルな浴場。料金は志納ということになっていて、まあ100円程度箱に入れておけば問題ない。客は他に誰もおらず、運良く浴場を独占できた。こういった共同浴場は馬鹿みたいにお湯の温度が高いのが常なのだが、先客が水を入れていってくれたおかげなのか否か、お湯の温度は適温でちょうど良かった。泉質は山口露天風呂とだいたい同じである。こちらにはカランもあるので、石鹸等を持ってくれば体を洗うこともできる。ほとんど金をかけることなく、この二湯で入浴をすませてしまうことが可能だ。なんとすばらしいことだろうか、四万温泉。ただし、外湯は十五時で終了してしまう場所が多いので、夕方に行く際には注意が必要である。
 知名度ではお隣の草津温泉に負けるかもしれないが、四万温泉にもセールスポイントがある。それは秘境ムードの温泉街ということで、草津にあるようなコンビニや風俗店の類がいっさい見あたらない。四万温泉はいたって田舎情緒を残した温泉街として差別化を図っているのに対し、草津はごちゃごちゃしていて、ストリップ劇場みたいなものもある。日本最初の温泉計画都市として整備された伊香保温泉も町並み事態は美しいが、一歩路地裏に入れば若干怪しい雰囲気が漂う道が続き、かつて売春問題が取り沙汰された暗い歴史を有している。
 四万温泉はそういう意味では非常にピュアだが、泉質もピュアだ。「泉質主義」をモットーに掲げ、強烈な酸性のお湯を提供する草津温泉、また黄金色に輝く美しい色の伊香保温泉に比べると、四万温泉はどうしてもこれという特徴のないお湯になってしまうだろう。知名度の差はこれかもしれない。しかし、お湯自体の新鮮さは他の温泉と負けず劣らず、肌に優しいいい湯なので、個人的には草津よりもお勧めしておきたい。

 続いて向かった先は「積善館本館」という旅館。ここは日帰り入浴を積極的に受け付けていて、料理とセットだと300円引きとなるお得なプランを展開。名物は釜上げうどんとのことだったが、僕は入浴のみとした。
 赤い朱塗りの橋を渡ると、和風ベースで西洋風建築がミックスされた若干怪しい建物が見えてくる。これにデジャブを覚える人も少なくないはずだ。それもそのはず、この建物はどうやら「千と千尋の神隠し」のモデルになったと自負している、歴史的にも貴重な建物なのだ。
 浴場は岩風呂と大浴場の二カ所。岩風呂は混浴だったが、特筆すべきことはなく、入っていたのもマナーの悪い男学生連中だけだったので早退きした。
 大浴場が異質である。周囲が日本建築なのに、ここだけ古代ローマを思わせる白壁の建物。脱衣所と浴場がそのままつながっていて、浴場には広い床に五カ所の四角い穴があいていて、それぞれ温度の異なるお湯が満ちていること。ここも泉質は無色透明で、わずかに湯の華が見られた。
 お湯に入っている人よりも、浴槽の隣に座り込んで休んでいる人がほとんど。脱衣所で回っている扇風機がそのまま届いて清々しい。一番奥には洗い場と金魚の入った水槽があり、洗い場の手前には蒸し風呂が二カ所ある。
 この蒸し風呂が怖い。真っ暗な空間の中に一人掛けの椅子があるだけで、小さい扉を閉じると完全に真っ暗になってしまう。岩の天井には穴があいていて、たぶんそこから熱い空気が降り注いでくるのだろうけれども、僕はシャーロックホームズの「まだらの紐」を思い出してしまい、その瞑想室から早退した。
 関越交通バスで中之条駅まで戻った。実は四万温泉の後は全く計画をたてておらず、いくつかある候補のうちから絞り、埼玉県の北部にある温泉へ行くことをバス車内で決定した。バスは通常走行をしていたのだが、寸前のところで吾妻線普通列車に間に合わず、仕方ないので500円払い臨時特急の草津号で高崎に向かった。ちなみに、中之条駅は以前吾妻線運転見合わせの影響を食らった場所で、あまりいい思い出がない。
 本庄駅から神流町方面へ向かうバスは朝日バスだが、これを含めて東武の子会社である各バス会社は各バス停のバス通過時刻を表示してくれない。ホームページを見ても、載っているのは始発となるターミナル駅の発車時刻だけであり、各停留所の正確な到着時刻は推理する以外途がないのだ。そんな過酷な状況下において、ほとんどノープランで挑んでみた。
 特急草津は44分に高崎駅到着。59分発の高崎線に乗ると、本庄駅到着が15分。本庄駅を発車する朝日バスは毎時0分の発車なので、本庄駅で45分の待ちぼうけ。これはあまりよろしくないプランだ。
 高崎周辺で時間を潰そうかと考えたが、この路線が丹荘駅入口というバス停を通ることを発見。ちょうどいい八高線は……あった、50分発の高麗川行き、丹荘駅到着は9分である。丹荘駅から丹荘駅入口までは数百メートル離れているものの、毎時0分に発車したバスが丹荘駅入口を通過するのは、まあ少なくとも10分はかかるだろうなという推理のもと、八高線に賭けてみることにした。
 八高線はご存じのように、首都圏に残された風光明媚なローカル線で、ディーゼル車のキハ110系が使われている。東北方面で大活躍する名車だ。加速も良く、椅子もボックスシートになっていて、特に一人掛けの部分は気楽である。
 倉賀野を過ぎると高崎線とお別れ。途中、かんな川を渡った。この上流には神流湖・ダムがあり、日本有数の心霊スポットとしてそちらの業界では超有名なのだが、一度行ってみたいものである。
 丹荘駅に到着後、ダッシュでバス停へ向かった。バス停は簡単に見つかった。バスの通過時刻は19分。十分間に合った。大成功である。

 降車地の一つ手前のバス停は「新宿」というもの。大都会であるはずもなく、花々に囲まれた長閑な風景だった。

 下渡瀬のバス停からファミリーマートの前を過ぎ、ほどなくして目的の温泉が見つかった。「湯郷 白寿の湯」という、田舎っぽい日帰り温泉施設である。中は広々していて、売店や食堂はもちろん、カラオケコーナーや広々とした畳の休憩スペースがある。こちらのスペースにはマンガ本が棚に入っていて、来場者はマンガ読んだり居眠りしたり自由に過ごしていた。
 さて、肝心の温泉はというと、内風呂が一カ所と広めの露天風呂が一カ所。石鹸・ドライヤー等完備だが、サウナと水風呂はない。
 わざわざこんな場所まで足を運んだのは、ここの湯の泉質のためである。浴室に足を踏み入れてびっくりした。赤茶色に濁ったお湯が満ちる浴槽の周囲は、温泉成分のために真っ赤に染まっていて、さながら鍾乳洞のように床が起伏している。そこまで古い施設ではないので、温泉の強さのためにあっという間にこうなってしまったのだろう。この風呂場の様相はとにかく筆舌に尽くしがたい。いかなるスーパー銭湯デザイナーが逆立ちしても決してたどり着くことのできない、自然の神秘がここにある。埼玉県にこんなすばらしい施設があるとは、温泉もなかなか奥深いものである。当然、お湯にも期待できるわけだ。
 金属分を多く含む湯で、入って出ると臍の辺りに金属分が付着してこするとオレンジ色になっていた。しかし、思ったよりもサラリとしたいい湯で、味もしょっぱすぎるのではなく、そのまま清涼飲料水にしてもおかしくない味だった。
 露天風呂にもこのお湯が満ちていて、風呂の中を歩くとわかるのだが、床にも例の鍾乳洞的な起伏がある。それにしてもパワフルな湯だ。伊香保よりもすごい。自分の入浴歴からすると、桜島のマグマ温泉がこれに匹敵するだろうか。もっと修行を積まねば。
 帰りは本庄までバス。高崎線を熊谷で下車し、駅前のラーメン屋に入った。

 「熊谷学校」という名のラーメン屋で、熊谷駅にも広告が出ている。店内は学校調。椅子が……。なぜか「ちびまる子ちゃん」のアニメがエンドレスで再生されていた。

 顕微鏡に乾杯。

 ビールと麺のセットで1000円。これはお得。

 パワーつけめんは豚肉をあしらった魚介(?)豚骨風のつけめん。写真は普通盛りだが、大盛りも無料とのこと。これはお得である。熊谷駅から徒歩一分なので、足を運んでみてはいかがだろうか。