海野十三(ゆずはらとしゆき)著「十八時の音楽浴」小学館ガガガ文庫

 なにかと話題の跳躍シリーズです。久しぶりにいいラノベを読みました。
 最初の章、火葬国風景はいまいちだったんですが、やはり設定はなかなか凝っている感じです。しかし何と言っても表題作、最初っから一気に読者を引きつける設定、それぞれの立場をリアルにこなすキャラクター陣、そして超展開の嵐! ライトノベルのこのような設定はてっきりつい最近確立したとばかり思っていましたが、戦前からこのような作家がいたというのは非常にびっくりを通り越して、目から鱗がジェット噴射される次第であります。
 海野十三は日本におけるSFの元祖とも言われる人で、まだ推理小説というジャンルが完全に確立していない、ましてやSFなんて誰も知らない頃、超科学的な小説を数々発表しつつも、「これは推理小説ではない」と批難され、戦争犯罪人として不幸な最期を遂げた方なのです。いわば、早すぎた才能という奴でしょうか。昔の作家なので、今のライトノベル作家陣には不足しがちな文明批判等文学的精神、及び文学的物語構成力を備えつつ、非常に魅力的な設定で物語を展開してくれるんです。ガガガ文庫は非常に良いところに目を付けたと言えましょう。これこそオタク第三世代が求めていたライトノベルなのではないでしょうか。とりあえずは歴史に埋もれていた貴重な人材を発掘したガガガの功績に乾杯し、次世代の才能を育てる為のエッセンスを学んでいこうではありませんか。