温泉旅行記 第三章(新潟県) 米坂線 高畠町まほろば温泉・越後関川桂の関温泉

 翌日はさすがに歩こうと思って、雪の降りしきる中ひどい道をひたすら歩いた。この時も駅を発見したときの喜びと言ったらなかった。反対側のホームを新幹線つばさが雪を舞いあげて通過していった。列車通過後、しばらくは雪が横へ舞っている状態が続く。これでこそ山形新幹線だ。
 普通車は学生で混雑していた。少しの辛抱で高畠に到着した。ここは駅の中に温泉施設があるという最近流行の駅ナカ温泉である。ここは浴場も清潔感に溢れていて、サウナも水風呂もある。設備は申し分ない。泉質も単純温泉だが悪くはなかった。何より、列車の待ち時間に風呂入れるのはすこぶる良い。これからも利用したい施設である。
 ちなみに、福島の浴場ではいろいろ話をふっかけられたが、山形ではいっさいそういうのはなかった。ただ、昨日の小野川では入浴の際はこんにちはと挨拶し、出る際はお先に失礼しますと声を掛ける。その辺りは徹底している。高畠や川西温泉ほど広い浴場になるとそれは難しいが、地元の公共浴場であればわりとそういう会話は頑なに守られているのだろう。
 米沢からは念願のキハ52に乗車できた。ただ、キハ47に両側挟まれて運転という何ともはやな調子である。まあ、夢が叶って良かったとは思う。
 全体的に予定を早めつつ、一気に新潟県まで移動した。途中何度も車窓の良い場所を通った。只見線もそうだが、川沿いを走るローカル線はただならぬ魅力がある。雪景色はもちろんのこと、自然の猛威をまざまざと見せつけられるのである。ダムに水が溜まっていたが、それがだいたい凍って雪を被っている広いエリアがあったり、かと思えばちゃんと水が流れている場所もある。写真をいろいろ撮っておきたかったが、車内からはけっこう難しかった。
 下車した越後下関駅界隈はこじんまりとした雰囲気の良い場所だった。雪もやんでいて、山形県ほど積もってはいないので移動も楽だった。昨日あれほど鞄を担いで動き回ったせいで軽い筋肉痛に陥っている。
 越後関川周辺には雲母温泉をはじめとする温泉街がたくさんあり、今回僕が訪れたのは道の駅関川の付属施設として作られた大規模な入浴施設だった。大勢の客に対応しているらしく、ロッカーの数もカランの数も今回の旅行で訪れた温泉の中ではダントツだった。決して悪くはない浴場だが、今まで入ってきた浴場に比べるとどうしてもインパクト不足である。露天風呂もわりと広いが、どうしても無難な範囲で納めた印象が強く脳裏に刻まれてしまう。まあ、長い間運転した疲れを癒し気分転換をするためにはちょうど良いかもしれない。
 道の駅関川にも寄ってみた。何か食べる物はないかと聞いたところ、勧められたのはカップヌードルだった。ラーメンではなく蕎麦だが、店員がこれは単なるカップ麺ではないからとやたら推してくる。そこまで言うのならと店員の言うことを信じ、他に誰も客がいなかったので、道の駅の中にある畳の上で食した。店員の言うことは正しかった。入っている山菜がなかなか本格的である。インスタントにしておくのはもったいないほどだった。
 店員はばあちゃんと若い女の人だった。若い方の人が僕のローラー付きケースを指さして、これ私のと一緒ですよと微笑みを浮かべつつ言った。僕は若干調子に乗り、このケースを持ってきたのは失敗だったと、昨日の苦労話を交えて語った。ただ、彼女はけろっとした表情で、私が旅行に行くとすればむしろ東京とかの方なので、むしろ問題ないんですとの返答。なるほど、そういうことになるんですか、と僕は納得した。
 道の駅にある自動販売機にはマックスコーヒーが売られていた。新潟県でも買えるのに、神奈川県だけ買えないというのは異常事態だ。早急なる改善を待ち望んでいる。
 米坂線で再びキハ52に乗り、終点の坂町まで行った。それからしばらく駅前をぶらついたりしたが、坂町は本当に何もない場所だった。そのまま羽越線白新線と乗り続け、新潟に到着したのは夕方頃で、バスターミナルから発着するバスをひたすら眺めたり、実際に四回ほど乗車してみたり、駅の待合室でインターネットを使ったりして夜行バスまでの暇な時間を潰した。新潟駅前のバスターミナルはエアロスターKやいすゞキュービックが入線しては出発していき、そのたびにアナウンスが入るので非常に面白かった。ただ、寒い新潟の地で夜行バスの到着を待つのは過酷だった。ようやくやってきた名古屋行きの夜行バスに乗車し、すぐに目を閉じた。

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