温泉旅行記 第六章(佐賀県) 長崎本線 嬉野温泉・武雄温泉

 旅行記の続きです。今回の更新が最後です。
 最初から読む場合は以下をクリックしてください。
http://d.hatena.ne.jp/kikuties/20080323


 せっかく九州に来たのだから振り子電車の乗らなければ気が済まない。そんなわけで、諫早から肥前鹿島までの一区間だけ特急白いかもめを用いることにした。二年前の九州旅行でその魅力を存分に味わった車両である。
 自由席でも椅子が革張りで、快適な旅が楽しめる。カーブでは車体が内側に大きく傾く振り子式だ。これにより、カーブでの制限速度が一般車よりも早くなり、高速運転が可能となるのだ。
 革張りの椅子も素晴らしいが、デッキのちょっとしたスペースが非常に面白い。ここでずっと車窓を眺めているというのも良い。しかし、肥前鹿島まではあっという間だった。
 そして肥前鹿島の駅を出て驚いた。特急停車駅であるにもかかわらず、駅前になにもない。あるのは駅から少し離れたところにあるやや広いバスターミナルくらいである。ここから祐徳バスを中心とした、各方面へのバスが出ている。かなり古い建物で人の気配がなく、まるで廃墟のようだった。そういえば諫早のバスターミナルもこのような感じだった。バス文化が以前から発達している九州にはこのような施設が数多くあるのだろう。
 肥前鹿島は本当に何もない。バスターミナルから少し行ったところにコンビニがあったが、それより先は歩く気がなくなってしまった。嬉野に着いても食事にありつけるか不明だったので、ここで今夜の晩飯を購入した。
 もうすでに夜七時で、嬉野行きのこの系統は最終便だった。祐徳バスは座席にムツゴロウが描かれているのが特徴だろうか。ほどなく嬉野温泉に到着した。
 宿へ行くと、二〇〇円で他の旅館の温泉施設に入ることの出来る切符を渡された。せっかくなので行ってみることにした。宿は雪駄をレンタルしてくれた。雰囲気が出て良い。
 嬉野温泉アルカリ性の美肌の湯として知られている。いざ入ってみると、肌がつるつるしてくるのがすぐにわかった。お湯自体がとてもまろやかで、美人の湯としての看板に偽りなしである。
 翌朝は嬉野名物の温泉湯豆腐を食べた。豆腐をアルカリ性の温泉水で茹でるとぼろぼろに溶け、お湯が真っ白に染まり、とても柔らかい独特の食感が楽しめるのである。家庭でどうしても作りたい場合は、重曹をお湯に混ぜるとそれに似たようなものが出来るのだとか。
 チェックアウトを済ませ、バスの時間まで若干余裕があったので豊玉姫神社を参拝して時間を潰した。嬉野温泉街はこじんまりとした店舗が寄り添った、昭和の雰囲気を残すやや寂れた印象だった。けれども泉質が良いので客は来るし、それなりに潤っているのだろう。ちなみに嬉野温泉のバスターミナルも肥前鹿島駅のような寂れた規模の大きいバスターミナルだった。
 ここで、ふと自分のポケットに手を突っ込んでみると、なんと旅館の鍵を持ってきてしまうという大失態を犯していたことに気がついた。これはまずい。
 バスの発車まで時間がなかったが、とにかく戻すしかなかった。荷物を引っ張りながら温泉街を走った。旅館の玄関に鍵を置き、時計を見るとあと二分で発車だった。これからバスセンターに戻ったのでは確実に間に合わない。それならば賭に出よう。
 武雄温泉行きのバスがどちらへ向かうかはわからない。けれども、大通りに出ればひょっとしたらバスが通っていくのではないだろうか。そう思い、バスセンターとは別の方向へ走っていくと、なんと信号の向こうにバスが停車していた。急いで横断歩道を渡り、すでに出発し掛けていたバスへ全速力で走っていった。するとバスの運転手は停車して有り難いことにドアを開いてくれた。本当にご迷惑をおかけしました。これで別に金を払う訳ではないから本当に迷惑な客である。しかし奇跡的に間に合って良かった。
 今日から使うのはSUNQパスという、九州島内のバス会社が連携して発行しているバスの三日間フリー乗車券である。九州島内の高速バス、路線バスを含めたほとんどのバスが乗り放題なのだ。宮崎と鹿児島には使えない北部九州版は六〇〇〇円、全九州版は一万円である。
 乗車したJRバスはOMNIBUSという愛称があり、真っ赤な車体が特徴的である。この嬉野温泉ー武雄温泉の路線はJRの周遊きっぷでも乗車可能だ。
 武雄温泉は武雄温泉口バス停の方が近かったが、ボタンの押し間違いで終点の武雄温泉駅までつれて行かれてしまった。大した距離ではないので歩く。
 武雄温泉の公共浴場は元湯、蓬莱湯などがあり、貸し切りにできる殿様湯もある。僕は元湯を利用した。浴槽が熱めの湯とぬるめの湯で分かれているので有り難い。しかし大半の客はぬるめに入っているようだった。熱めは確かに熱めだったからだ。武雄温泉も嬉野温泉のような美肌の泉質だった。なかなか雰囲気も良い。そして後日、別の日に全く同じ浴場を訪れたサークルの先輩がいたことが発覚するが、それはまた別の話(なんだかこれ、定型句になっているな……)。
 再びJRバスに乗って、今度は彼杵本町で下車した。ここでハウステンボスからやってくる長崎行きの高速バスに乗り換えるのだが、バス停で待っている間雹が降ってきた。天気は確かに良くなかったが、こんなものが降ってくるとは思いもしなかった。ようやく山形の雪から逃げてきたのに、一体何なのだろう。
 高速道路はわりと長崎の市街地まで延びていて、長崎駅前まであっという間だった。新地中華街まで長崎県営バスで移動し、長崎名物の皿うどんを食した。再び長崎駅前に戻ってサークルのメンバーと合流し、路面電車に乗って市内をうろうろした。そのときに聞いた話だが、長崎の思案橋とは昔遊郭のあったあたりで、そういった店に入ろうかやめようかを思案したから、思案橋という名称が付けられたのだそうである。
 その晩は宴会を行い、長崎で一泊した。