温泉旅行記 第七章(大分県) 亀の井バス 湯布院温泉・別府温泉

 翌日は北九州行きの高速バスに乗車した。主な高速バスは予約が必要で、インターネットで簡単に予約を済ませた後、窓口で座席指定券を受け取る。それをバスの乗務員に渡し、パスを見せるだけで乗車できるのだ。
 三方向へ進むことの出来るクローバー型インターチェンジである鳥栖JCTの近くに高速基山バス停は存在する。ここは九州の高速道路の中心地で、各方向へ乗り換えができるのだ。まさにジャンクションを有効利用した成功例と言えるだろう。バス停はJCTからやや北へ進んだ福岡県方面に存在し、長崎から来た僕はJCTを左折、バス停で降りた後反対側の道路に移動して、再び左折していく大分方面行きのバスに乗り換えるのだった。
 僕はかしわめしを食べてからバス停へ向かった。バス停にはバスロケシステムがあり、バスの到着時刻や遅延情報などが表示されていた。利用予定のゆふいん号は十三分の遅延をもって運転していた。
 結局目当てのバスはかなり遅れて到着した。再びJCTを通過して湯布院へ向かう。子供の頃からクローバー型インターチェンジが好きな変わり者で、落書きと称して紙にそれを書いていた。日本で実物を見る機会はあまりないから興奮していた。ここが九州自動車道長崎自動車道大分自動車道の分岐点なのである。
 ただし、JCTの東側はサガンクロス橋という橋がセットになっている。また、鳥栖インターチェンジと一体になっていて、こちらは変則クローバー型だ。
 と言うわけで、念願のクローバー型インターチェンジを二回も通過し、終点の湯布院まではしばらく居眠りをした。
 大分出身の知り合いに聞いたところ、別府は最近寂れていて、湯布院の方が観光地として人気とのことだった。いざ行ってみると、人がやたら多かった。車通りも激しい。
 やっとのことで金鱗湖湖畔の共同浴場に到着した。ここは今回の旅行で組み込んだ唯一の混浴風呂である。いらぬ期待を胸に抱き、いざ入浴してみた。
 結論から言えば、女性が入ってくることは結局なかった。最初の入浴客は僕一人で、あとからタクシーの運ちゃんらしきおっさんが入ってきただけである。共同浴場自体は大して悪い設備ではなかったのに、なんだかここはあまり印象の良くない浴場となってしまった。別に何かを期待していた訳ではないが、いざ何もなかったというのはやはり残念だった。泉質自体も単純温泉で、これといって特徴のあるものではない気がする。
 金鱗湖は湯気の立ちこめる湖で、浴場のお湯がそのまま湖に注がれている。湖の周りを一周してみたが、ツアー観光客の多さに閉口した。湖畔にはシャガールの美術館やら千円均一の雑貨屋やら、あまり湯布院と関係なさそうな店が並んでいる。
 温泉街と言うよりも不自然な商店街と呼ぶべきなのかもしれない。今まで人の気配がない寂れた良い雰囲気の温泉にたくさん入ってきたから、逆に観光地として成功していて潤っている湯布院が居心地の悪い場所に映った。なんだか商店もあとからとってつけたようなものばかりで不自然なのである。元からあった町並みを生かすのではなく、温泉街という名の付いたテーマパークを歩いている感じだった。車の往来が激しく、なんだか頭が痛いような気になったくらいである。それでも収穫だったのは、二年前に九州を訪れた際にソニックの車内で飲んではまってしまった「つぶらなカボス」が手に入ったことだった。
 湯布院から別府までは亀の井バスを利用した。これがまたとてつもない場所を走っていくから驚きである。ススキなのか何なのかよくわからないが、とにかく小麦色の絨毯が一面に敷かれた山道の間を縫ってバスは走っていくのである。予備知識を入れておけば良かったと今更になって後悔する。近鉄が運営しているロープウェイは運休中だったが、遊園地の方からは結構客が乗ってきた。かなり面白い路線だった。
 別府ではわりと時間があったので、再び亀の井バスに乗って鉄輪に向かった。時間的にもう地獄めぐりは出来ないが、温泉だったらやっている。鬼石坊主地獄に併設された温泉施設が鬼石の湯である。
 これが素晴らしかった。湯布院が期待はずれだった分、こちらは十分に楽しめた。内風呂も良いが、露天風呂と眺望風呂が別になっていて、露天風呂の方には柑橘系の果物がぷかぷかと浮かんでいる。木製の階段を上っていくと、別府の市街地が一望できる眺望風呂がある。鉄輪はちょうど山の上なので、景色がすこぶる良い。ずっと入っていても飽きないような印象だった。
 海地獄前のバス停から亀の井バスに乗り、別府まで戻った。食事を摂った後、駅前高等温泉という浴場へ行ってみた。建物は欧風で、浴場は地下施設みたいな雰囲気である。これも熱い・ぬるいで分かれているが、熱い浴槽が結構熱かった(それでも、初日に入った穴原ほどではないのである)。
 別府から大分までは振り子車両第二弾、八八三系ソニックである。三〇〇円を払えば特急に乗れるのだから乗らない手はない。こちらは本当にあっという間だったが、某ネズミのキャラクターのような座席と言い、ハイセンスなデッキといい、なかなかの車両だと思う。八八五系の陰に隠れてしまってどうしても目立たないが、個人的にはかなり好きである。