今度は飛翔賞

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参加しました。



 近所のイトーヨーカドーで鳥もも肉を買った。白いプラスチックのトレーにピンク色の肉がちょこんと乗っていて、「宮崎産」「レジにて2割引」というシールが貼られているものだった。急に鳥もも肉はレジ袋から飛び出した。僕は最初、それを呆然と見ていた。しかしよく考えると、ここで鳥もも肉に逃げられては今晩の夕飯がなくなってしまう。お腹を空かせた妹に示しが付かないではないか。そんなことを考えているうちに鳥もも肉は大空を舞い始め、僕もその後を追うことにした。鳥もも肉はまるで地球の外から操られているマリオネットのように動いた。僕は今晩の夕飯を逃さないために必死だった。赤羽駅を下に掠めると、鳥もも肉は飛鳥山公園の上空を飛翔し、東京都庁の間をすり抜け、東京タワーをくぐり抜けて再び上昇していった。僕は東京タワーにぶつかりそうになりながらも、無我夢中で鳥もも肉の後を追った。地上でなにやらこちらを指さしている人がいたが、お腹が空いていたので気にならなかった。しかし追跡は長く続いた。太平洋を越え、やがて絶海に浮かぶ孤島が目についた。そこはハワイのリゾートビーチだった。鳥もも肉はようやく着陸した。僕はハワイのビーチに降り立ち、アメリカ人に驚かれることによって初めて自分が空を飛んでいたことを意識した。けれども、鳥もも肉を捕らえるのが先だった。

「どうして逃げたんだ?」

 僕がそう尋ねると、鳥もも肉はだだをこねる子供のように答えた。

「だって、自由になりたかったから」