秩父漫遊

 西武鉄道往復+高麗〜西武秩父乗降自由+西武観光バス乗り放題(三峰神社線除く)という素晴らしいチケットを発見、発券。レッドアローで早速西武秩父へ。


○安田屋の「わらじカツ丼」
 カツ丼といえば卵が入っていたりキャベツがあったりするのだが、秩父のわらじカツ丼はでっかいカツにタレがしみこんだ簡素かつボリュームたっぷりのもの。安田屋は小鹿野町の原町バス停から路地裏を入ってすぐのところにある人気店で、こんな田舎であるにもかかわらず開店の11時に合わせて満席となった。
 メニューはわらじカツ丼のみ、800円。かなりボリュームが多く、大人でも食べきれないため、女性や小食の方には子供用に700円がある。
 間違いなく小鹿野町名物。B級グルメとして世に羽ばたいてもらいたい。


小鹿野町
 群馬方面からの街道沿い、古くから交通の要衝として発達。現在、やや寂れているものの蔵づくりの街並みは健在であり、商家の街並みを歩いていて”飽きない”(駄洒落である)。
 古くから歌舞伎が発達。小鹿野と言えば歌舞伎が有名な町というアイデンティティーで、無料で入れる歌舞伎の歴史展示場みたいなのがある。年に数回、歌舞伎にまつわるイベントを開催しているものの、やはり歌舞伎で町興しはちょっと前時代的なイメージがつきまとうためか、最近では「バイクのまち」として積極的にPR中。バイクに関連したグッツなども売っている。国道299号の悪路を好む走り屋が多いためであり、実際先ほどのわらじカツ丼の店にいたのも走り屋の格好をしたにいちゃんばっかりだったわけだが、この先どのように観光事業が展開していくか気になるところである。


○薬師堂
 十輪寺愛宕神社など、古くからの寺社仏閣も勿論健在。さて、薬師堂にこんな絵馬があったのだけれども、一体何なのだろうか? ひらがなで「め」と書かれている。
 真っ先に思いついたのはジブリ映画「千と千尋の神隠し」で海原鉄道に積まれた荷物である。あれにも「め」という札が付いていた。

http://overmt.at.infoseek.co.jp/nakachism/dictionary-ma-meme.html
↑こんな説も。


西武観光バス、倉尾線
 西武観光バスの最果てバス停は以下のとおりである。
・志賀坂線「坂本」
・倉尾線「長沢」
・中津川線「中津川」
三峯神社線「三峯神社
 あとは松枝、定峰、久那などがある。
 上記四路線に関しては長沢を除いて全て訪問済みだったので、今回は長沢へ行くことに。
 隘路バス路線ファンにはたまらない路線だった。沿線には日本百名水に選ばれた毘沙門水などがある。
強谷(すねや)、八谷(やがい)、大石津(おおしづ)、長沢(ちょうざわ)と、難読バス停が続く。


○要トンネル
富士重工製の立派なバスがこんな岩場のトンネルを抜けるのは壮観。


○長沢
そのまま折り返して乗ろうとしたらバスの運転手に話しかけられ、いろいろ突っ込まれるうちに自分が路線バスマニアであることが露呈してしまった。その後、フレンドリーに色々話してくれた。西武観光バス所轄路線でも、この倉尾線が最も道が狭く、運転しづらいのだとか。



○かおる鉱泉
鉱泉というのは、温泉に該当する成分を有しているものの、湧出時の温度が低いものを言う。
無色透明のお湯。露天風呂などはなく、ちょっと狭い内湯が一つあるのみである。「鉱泉」と書かれた蛇口をひねると硫黄の匂いがぷんぷんする水が出てきて、これが素晴らしい。窓を開ければ河辺の緑が映え、独特の感覚が肌をやんわりと包む。ちなみに貸切状態。
硫黄の冷鉱泉に入れる鄙びた宿、かおる鉱泉は日帰り入浴600円、西武観光バスの倉尾線、または秩父吉田線の「小川戸橋」下車目の前。
その後は秩父吉田線で秩父駅を目指した。以前は皆野駅行きだったが、路線を統廃合して吉田元気村から秩父まで直通で走るようになった。ただし、これも一日4〜5本の運行なので注意が必要である。龍勢まつりの様子を展示した龍勢会館が沿線に存在。


○坂本
 翌日は坂本を訪問。ここへ来るのも三回目である。もはや聖地に等しい。
 後輩を連れていったが、坂本バス停の直前で右折し、村落のど真ん中で停止したことが印象的だったらしい。あと、途中のバス停が小学校の最寄りで、対向車線をまたいで道路の右側にあるバス停に侵入していく様子も面白かった模様。


○西谷津温泉 宮本の湯
 小鹿野線「松井田」バス停下車、徒歩5分ほどのところにある温泉旅館。後輩と別れてここから再び一人旅になる。日帰り入浴は700円、ちょっと緑がかった冷鉱泉が特徴的である。硫黄臭漂う「かおる鉱泉」のように特徴的な湯ではないが、アルカリ性でpHが高く、肌に対する効果は絶大。こぢんまりとした露天風呂もなかなか風流。貸切風呂もあるらしいが、自分が入ったときは誰もいなかったのでまたもや貸切状態だった。


○今回の旅で最も感動した瞬間
 湯上がりでバス停に向かい、時間があったので近くの田んぼに入っていった。ただそれだけだった。
 コロコロと鳴き出すカエルたち。一カ所で始まると、連鎖的に至る所でカエルが鳴き始め、やがて大合唱となる。誰もいない田んぼのど真ん中、普段は穏やかで風の音くらいしか耳に入らないが、この時ばかりは両側から鳴き続けるカエルの声が耳を劈き、僕の魂まで揺るがした。とにかく大音声だった。
 都会で生活していると聞くことのできない、自然の音楽である。田んぼでただカエルが鳴いているだけなのだが、成長を続けることだけに熱心な東京が完全に失ってしまった懐かしい音がそこには存在していた。バスが来るまでの間、ひっそりと田んぼの真ん中に佇み、両耳にこだまするカエルたちの声に耳を傾けていた。
 まさにプライスレスな一時だった。バス停途中下車には思いがけない出会いがある。だからやめられない。