恐山訪問記 第5章「北端」

 翌朝、朝5時30分頃に目が覚めてしまったので浴室へ向かうと、既に大浴場は結構混雑していた。東北の人は本当に朝が早い。さっと入浴して部屋に戻り、出発準備を整えたあと朝食を頂く。7時40分に宿を出発し、30分ほどかけてひたすら大間崎へ向けて歩いた。朝の田舎道はとても清々しいが、なぜかアスファルトの道路にミミズの死骸が大量に落ちている。昨日、あまりにも気温が上がったせいかもしれない。



 公衆トイレがあったので立ち寄ってみた。恐らく、本州最北端の公衆トイレである。多目的だったためかもしれないが、便器が変な形をしていた。それにしても「聖なるところに神やどる」とか……。


 本州最北端のバス停。奥に大間崎名物のモニュメントが見える。



 到着。前衛的な腕のモニュメントは、どうやらマグロの一本釣りを表しているらしいですが、ちょっと前衛的すぎてついていけない。まあ、面白いので良いか。


 本州最北端の地から海を眺める。以前、本州最南端である潮岬へ行った時は曇りだったけれども、今日はなんとか晴れてくれて開放的な気分。やはり北はいい。旅へ出るなら西よりも北。函館はすぐ近くで、ここは北海道の松前よりも北に位置する。


 付近には石川啄木の歌碑があり、朝早くから観光バスが乗り付けて大量に人を降ろし、記念撮影をさせている様子だった。大間崎周辺には土産物屋も数件あり、交通の便が悪いわりには賑わっているようだった。それでも全盛期に比べれば減ってしまったのだろう。かつては若者を中心にバイクでこの地まで乗り付け、テントを張っての自営が流行ったそうだ。

 土産物屋を物色し、「最北端到達証明書」を発行してもらう。なぜか最南端の時よりも嬉しい。随分遠くまで来たという思いが強いのかも知れない。




 9時3分発の下北駅行バスに乗車。大真崎から下北まではちょうど105分である。昨日通ったところではあるが、やはりなかなか風光明媚な路線で、バス趣味界の五能線といったところだろうか。


 海岸沿いをひたすら走り、到着したのが大畑駅前。ここでバスは5分間の休憩を行う。前述したようにかつては下北交通の列車が運行していた本州最北端の駅だった。現在はこの下北交通バスむつ線がその役目を担っているが、バス停の名称は今もなお「大畑駅前」である。少しせつない。



 トイレ休憩にかこつけて周囲を散策した。待合室は完全に駅舎であるし、バスロータリーの近くには廃線跡が生々と残っていた。列車の車庫らしき建造物もある。つい最近まで走っていたかと思うと、乗っておけばよかったなという後悔の念に駆られる。


 バスはむつバスターミナルを経由し、ほぼ定刻通りに下北駅前に到着。10時53分発の大湊行きに乗った。終点で下車し一度駅舎を見学した後キックターン(ちゃんと料金は払いました)。これで大湊線は完乗。そのまま快速しもきた号に乗り、野辺地で下車した。なお、着席目的のため僕のように大湊までキックターンする人はいるらしく、下北駅には「大湊まで行く場合は往復乗車券が必要です。また、大湊で列の後ろに並んでいただきます」と書かれていた。どうせ混んでいないだろうと思いきや、実際に列があったのでびっくり。まあ、列に並んで乗っても十分着席できる程度だったけれども。




 野辺地では名物駅弁のとりめしを購入。特急つがる16号の車内で美味しく頂いた。ちなみに、野辺地から八戸までの区間はたいして長いわけではなく、普段なら特急など使わないのだが、つがる号に乗車したことがなかった上、東北地方で「乗継割引」を使う滅多にないチャンスだったので、700円払って快適な旅を楽しんだ。新型車両とは言え、なかなか悪くない車両だった。

 車窓からは現在熱意建設中の東北新幹線(八戸−新青森間)線路が見えた。これが開通してしまったら、東北本線第三セクターになり、つがる号のような特急も縮小or廃止になってしまうのだろうか(そうならば、今回乗っておいて良かったと思う日が来るかも知れない)。新幹線開通は華々しい出来事のようで、その裏で多大な犠牲を伴う。この辺りが第三セクター化してしまったら、大湊線、そして下北半島全体にも打撃が来るかもしれない。開通によって単純に観光が活性化してくれればいいのだが、そうとは限らないので慎重になるべきである。個人的には、青森県の持つ唯一無二の観光資源があれば大丈夫だ、と期待したいのだが。

 山形県新庄市と比較して、青森県八戸市は新幹線開通後も活気に溢れている。南部バスと市営バスの整備を積極的に行い、観光客にもわかりやすい政策を取ったからだろう。市内の目玉観光地である八食センターと駅を100円で結ぶ八食バスはなんと満員通過だった。盛況ぶりが伺える。今度また来てゆっくりしたい都市だ。漁港の町として非常に元気である。

 八戸のバスに関しては以下参照のこと。なんと、ありがたいことに当サイトが引用されています(笑)。
http://blog.goo.ne.jp/hayate_hiro/e/7e3b0c2c65cc9a207ec1115560a4883d


 八戸では時間があればCJMに乗りたかったが、駅前ロータリーにいても来る気配がなかったので、近くにあるはちのへ温泉に立ち寄った。駅から徒歩12分の距離にあり、料金は420円。源泉温度が高いために加水はしているものの、循環濾過はしておらず、強い塩分を感じる。高温風呂とぬる湯が別れているのでありがたい。お湯に使ってみると、小さいけれども、もずくみたいな湯の花が浮かんでいる。これは面白い。あと、仕組みはよくわからないが日本初のサウナがあり、低温でも十分汗を発散することができた。おそらく源泉を用いた水風呂があって、これが特に気持ちいい。シャンプーや石鹸などの設備はないので持参が必要だが、列車の待ち時間を利用して一風呂浴びるには最適である。また、この施設は駅前温泉旅館の姉妹店であり、駅により近い旅館の方は日帰り入浴600円で石鹸などの施設完備だそうである。

 帰りは八戸市営バスに乗って駅前まで。短距離なら130円と格安である。土産物を物色しているといつの間にか新幹線の発車時間が近づいていたので、慌ててはやて18号に乗って東京を目指した。相変わらず新幹線は速い。八戸の次は盛岡、その次は仙台である。うとうとしているとあっという間に大宮、そして東京。大間崎ー八戸の所要時間よりも八戸ー東京の所要時間の方が短い。

 東北地方の魅力を存分に得ることの出来た旅行だった。また機会があれば、ぶらりと青森に立ち寄りたい。