温泉寺訪問
実は、九つの外湯めぐりのほかに、番外編として温泉寺が存在する。武田信玄が川中島の戦いの際に負傷した兵士を連れてきて傷を癒したという逸話があり、それにちなんで和式サウナ風呂の釜風呂が用意されているのだが、あいにくこちらの施設は老朽化が進んでおり、自分が行ったときは入湯停止状態だった。ただ、温泉寺自体は風格のある立派な建物で、温泉街の中心に神社仏閣がある場合は多いけれども、ここは特別に信仰の強い場所なのだと感じた。
この温泉寺は温泉街の右端に位置していて、そこから山沿い、温泉街を包むようにいくつかの神社が並んでいる。温泉街と神社仏閣の配置もなかなか興味深い。
夕飯は信州そば。残念ながらこの店が店内撮影禁止だったので写真はないが、なかなかおいしいとろろそばをいただいた。正直なことをいえば蕎麦は東北の蕎麦が信州系よりも好みなのだが、蕎麦湯を飲んでみるとほかの蕎麦屋と全く味が違うのがわかる。
今回は宿泊しなかったものの、渋温泉には上の写真のようなまるで千と千尋の神隠しの世界を彷彿とさせる素敵な宿もある(金具屋)。実際に作画のモデルとなったらしい。
そして和合橋から温泉街へ入っていったあたりに夫婦和合の道祖神がある。檻の中に入っているので全体像がどうなっているかよく見えないのだが、なんだか怪しげなモニュメントが入っているのがわかる。最近はモンハンで町おこしをしているらしく、そういった絵馬がかけられていたが、あまり本来の和合云々とは関係ないのではなかろうか……。
夕方となり、雰囲気満点の渋温泉街。嫌なことも忘れ、そろそろ外湯めぐりを再開しようかしらという気分になる。自分は普段から珍しい温泉を訪ねるのが好きだが、こういう絵に描いたような非日常を味わう旅もなんだかすごくいい。渋温泉があまり観光客に人気のスポットにあがらない理由は、やはり外湯の敷居の高さなのだろうけれども、ここは水でうめたから地元民に怒られるようなトラブルはなさそうだ。地元民も水でうめないと入れないほどの湯だから……。
外湯めぐり(4)四番湯・竹の湯
自分が宿泊したホテルの目の前にある外湯である。四番目に訪れたものの、あまりにも熱すぎて一回断念したのだ。水でうめてもうめても非常に熱く、浴室に立ち尽くして呆然としながら水がじゃぼじゃぼ入っていくのを見つめていると、四人ほどの若者グループがやってきて、みんなが足を湯に浸けるだけで熱い熱いと狂気の沙汰のように泣きわめき、バイキンマンのごとくそそくさと退散していった。もっとも、彼らの気持ちも痛いほどよくわかって、源泉温度が90度を越えているのだ。今までで一番熱い。頭がおかしい。いくら水をいれてもどうしようもなかったので自分もやむなく退散した。九つの外湯を回るためにここまでやってきたのに、出鼻を挫かれて非常に憂鬱になってしまった。自分も300カ所以上の温泉を回っているという変なプライドはあるので、彼らのように「足を浸けたからまあ温泉に入ったことにしよう」とする妥協はできなかった。せめて全身は浸からないと……ああでもこのお湯に入ったら間違いなく火傷するしこの後の外湯めぐりにも支障を来す。
このまま待ってもどうしようもないので、一時退却。手ぬぐいのスタンプは押さず仕舞いで別の外湯に向かった。
酒蔵美術館ギャラリー玉村本店訪問
外湯めぐりの休憩として、橋を渡って川の反対側へ向かい、道祖神などを見つつ坂道を上っていった。ここに、ギャラリーと酒蔵を一緒にしたような施設がある。浴衣に下駄というよくよく考えてみれば非常識な出で立ちでのれんをくぐったら、ちゃんとスリッパを用意してくれた。
そしてカウンターに並べられた日本酒は自由に試飲していいとのこと。ちゃんと大吟醸までよりどりみどりそろっていて、これはなかなかの大盤振る舞いだ……。試飲は三回までとか、大吟醸は有料とか、そういう制度を設ける場所も少なくないが、さすがおおらかである。
館内にはざっと現代日本画が並んでいた。残念ながら日本画の知識はなかった。
いきなり酒蔵を覗くことができる。土産物として日本酒を買って店を後にした。
外湯めぐり(3)二番湯・笹の湯
しっしんや病気の回復時に効果があるという湯。ここを訪れたのは諸事情で三番目であった。向かいにある土産物屋のおばちゃんが観光客に熱いですよ〜と注意しているシーンを目撃し、その後入ってみたが、この熱さはすさまじい。
タイル張りの浴室にのっぺりとした浴槽があるのみのシンプルな湯で、お湯も特段無色透明で特筆事項はない。あるとするなら、熱すぎるということだ。一番湯よりも熱い、75度の湯がとうとうと浴槽に注がれているから無理もない。なんとか水でうめて入ったものの、長湯は基本的に不可能である。あっという間にあがってしまった。